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フリーライター藤谷千明の日記です

【過去記事保存】「消去法」としての"ジモト志向"  (初出: 第二次惑星開発委員会「ゼロ年代のすべて」2009年12月)

(2009年12月にコミックマーケットにて頒布された第二次惑星開発委員会「ゼロ年代のすべて」収録のコラムを微修正して掲載しています

 

「若者は東京に憧れず、地元でまったり過ごすようになった」近年よくメディア上で語られる言説である。 しかしその「地元指向」は果たして、女子にとって「まったり」できる安住の地として、選んだ結果なのだろうか?

 

 近年、地方都市の「普通の女の子」をモデルに起用した『新潟美少女図鑑』というフォトブック形式のフリーペーパーが話題を呼んでいる。

「東京の雑誌」と遜色しないという誌面クオリティが魅力で、新潟から全国へ飛び火し、全国の編プロやヘアサロン等とフランチャイズ契約を結び、東京以外の全46道府県の『美少女図鑑』創刊が決まっているほどの人気ぶりだ。

美少女図鑑』を仕掛けた会社テクスファームのHPには「地域をブランド化する」とあるが、現在発行されているどの県の「美少女図鑑」も、正直な話あまり大きな違いは無い。

言ってしまえば、東京のファッション雑誌を意識したそれっぽいメイクとスタジオ撮影に緊張している「ふつうの女の子」の写真ばかりなのである。そこに特筆した地域性は感じられない。つまり、『美少女図鑑』を支えるのは、「東京の雑誌みたいなクオリティの雑誌」に自分自身や、知り合いが掲載されるという 「祝祭」を楽しみたいという層なのである。 そして、広告ページも提携している美容院や写真館(サロンとフォトスタジオ、と書くべきか)以外は、美容師やネイルの専門学校や結婚式場etc…と、この層が求めている自己実現方法の選択肢がここに集約されているのだ。

 

 また、ケータイポータルサイト「Peps!」が女子高生を対象に行った1000人アンケート(http://ran.peps.jp/)の「憧れの職業ランキング」の1位は、「お嫁さん (174 名)」という結果であった。(余談だが三浦展氏主宰の「カルチャースタディーズ研究所」アンケートでは11位だった「キャバクラ嬢」はランキング外であった。なお、氏のアンケートには「お嫁さん」にあたる選択肢は存在しないことも留意しておきたい)たしかに保守的な結果ではある。

だがそれは、旧来の「女は結婚して家庭を守るべき…」といった意味での「保守」なのではなく、ほかに安定した選択肢がなく、文字通り「生活を守り保つにはどうするべきか?」という問いの結果としての「保守」なのだ。

ちなみに、今年(09年)の高卒女子の就職内定率は「51.8%」、大半がフリーターになるということが推測される。

しかし、高卒男子の就職率も低い(63%)昨今である。こうなると配偶者にも収入面では期待できない。厚生省の「21世紀成年者縦断調査(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/judan/seinen09/index.html)」による と、この4年間でいちばん第一子の出生率の高い夫婦の合計所得は「100万円以内」の64.7%で、住居の床面積は25平方メートル未満である。そして、第2子以降をもうけた 夫婦の場合、いちばん多いのは150〜200平方メートル未満と急激に広くなる。 これはどちらかの両親と同居していると推測される。つまり、そうしないと生活が維持できないのだ。

(親の経済援助と教育に恵まれなかったケースは、青砥 恭「ドキュメント高校中退」(ちくま新書)に詳しい)

 

 象徴的なのが、人気ケータイポータルサイト「CROOZ」ブログのひとつである「ママ/子育て(http://blog.crooz.jp/genre_info.php/?c=36)」カテゴリだ。

ランキング上位のブログの内容は至って画一的で、(いくつかは、誇張と妄想だと推測されるが)

「10代で出産、夫の暴力や浮気を乗り越え現在はシングルマザー」もしくは「流産した子供への思いを切々と語る」といった、 ケータイ小説「恋空」のアフターストーリー的な内容か、コンビニコミックのような義父母とのバトルを綴った日記のどちらかにわかれている。

(なお、現在の「ケータイ小説」自体のメインストリームは「恋空」的な世界観の実話系小説ではなく、ミドルティーン向けの学園ラブコメ小説へと変化している)

 

 そこから浮かび上がってくるのは、「ジモトでまったり」とはほど遠い、切実な日常と、すこしばかりの非日常の二極化なのではないだろうか?

 

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https://fjtn.hatenablog.com/entry/2022/08/05/213617fjtn.hatenablog.com

この記事よりも5年前、駆け出しライターよりもずっと前の「なんかよくわからん状態の人」だった頃の文章です。いや、たまたま探しものしてたらテキスト出てきたので、なんかもったいないから再利用しました。自分の問題意識の核はあまり変わっていない気がする。ただ、結局当時のわたしがいくら言ったところで、ほぼ誰にも声は届かなくて、何も変わらなかった。多分今のわたしが言ってもそんなに何か大きく変わるものもないんじゃないかな。じゃあやることはひとつしかない。「もっとデケえ声を出す」しかないと改めて思ったわけでした。今ならもう少し、やれることがあるはずなんだから。