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フリーライター藤谷千明の日記です

【過去記事保存】ギャルはどこへ行ったーーゼロ年代読モブームのゆくえ(初出cakes:2014年5月2日 )

(※2014年5月にWEBサイト「cakes」にて掲載されたコラムを、サイト終了により加筆修正して公開します)

ギャルはどこへ行ったーーゼロ年代読モブームのゆくえ


1995年に創刊し、コギャル、ガングロ、ヤマンバなど、女子高生のギャルカルチャーを産んだ雑誌『egg』の休刊が発表されました。近年、ギャル系雑誌は次々休刊し、「ギャルの聖地」と呼ばれた渋谷でもギャルを見かけることもめずらしくなっています。ギャルはいなくなってしまったのか? そんなギャル文化の現在地を解説しました。

 

『egg』休刊

『egg』2014年6月号

5月1日、「ギャルカルチャー」を黎明期から牽引していた『egg』(大洋図書)が、5月31日発売の7月号で休刊することが発表されました。 99年の絶頂期に一度休刊しているものの、すぐに復刊した時とは状況が違うというのは、昨年『men's egg』が休刊したことをみれば明らかだと思います。

そして「age嬢」という言葉を生み社会現象にもなった雑誌『小悪魔ageha』、ギャル雑誌『Happie nuts』などでお馴染みのインフォレストの事業停止も大きなニュースになりました。

ギャル雑誌に明るいニュースが少ない昨今、たしかに街を見ても派手なヘアスタイル・過度な露出……といった、「いかにもなギャル」は減っているような気がします。 これは東京だけの話ではなく、地方のイオンモールのアパレルショップで働く私の友人曰く「最近の若い子は派手なギャルは減ったよ。派手なのはアラサーばっかり!」とのこと。

とはいえ、ギャル文化は「なくなった」と考えるのは早急です。むしろ「拡散した」と言ったほうが現状を正確にとらえていると私は考えています。

ネオギャル・LARME女子・清楚ギャル……拡散するギャルカルチャー

ではギャルの拡散とはどういう意味でしょうか。拡散するギャルカルチャーを追ってみましょう。

・「意識の高いギャル」――ネオギャル

 

ALISA 植野有砂オフィシャルブック



赤文字系の中でギャル色強めの『ViVi』(講談社)がプッシュしている「ネオギャル」の代表格は、ファッションブランド「FIG&VIPER」クリエイティブディレクターの植野有砂さん、「EVRIS」プロデューサー佐々木彩乃さんなど。渋谷だけでなく原宿や海外のモード、セレブ系ファッションを取り入れ、TwitterInstagramなどのSNSを駆使して自分たちのファッションやカルチャーを積極的に発信。海外志向も強く「意識の高い」発言も目立ちます。

 

・「ガーリー&アンニュイ」――LARME女子

LARME(ラルム)009 2014年05月号

 

『LARME』(徳間書店)は12年に創刊され、瞬く間に公称23万部に急成長。編集長が『小悪魔ageha』編集部出身ということも話題を呼んでいます。ギャル雑誌出身モデルやアイドルを中心に構成されている紙面は、「LARME的」としか言い様がないガーリー世界を構築。従来のギャル誌ほどアッパーではなく、「小悪魔ageha」ほど病みを強調するわけではない、アンニュイな雰囲気が幅広い層の支持を得ているのだと思います。

 

・「ギャル版ノームコア?」――清楚ギャル

Popteen』(角川書店)2013年10月号の表紙には「GALの時代が変わる!清楚な女のコ宣言」とでかでかと書き方針転換。『Ranzuki』(ぶんか社)も人気モデルを多数卒業させたのち、2013年12月号から清楚系にリニューアル。

「Ranzuki」2013年11月号表紙。なつぅみこと斉藤夏海さん卒業特集号。

 

アイドルブームやガーリーな「LARME」のヒットもあり、黒髪や暗い髪色で清楚風なメイクの方が現代的なのかもしれません。今話題の「ノームコア(筋金入りのふつう)」とリンクしているのかどうかはさだかではありませんけど。

そして、カテゴリ分けしてみて改めて感じるのが「読者モデル(読モ)」という存在の弱さです。 次は「読モブーム」が何故収束していったのかを考えてみたいと思います。

ゼロ年代”読モ”ブームとはなんだったのか

ギャルカルチャーと「読モ」は90年代から密接な関係にあり、当時の読モブームを牽引した雑誌『東京ストリートニュース!』(学研)や『egg』からは、「スーパー高校生」と呼ばれる多数の”カリスマ”が生まれました。

11~12年にかけて、90年代の人気モデルたちを振り返る雑誌や書籍が続いて出版されました

90年代の「読モブーム」は「女子高生ブーム」でもあったので、彼女たちが卒業するとともに「カリスマ店員・美容師ブーム」などにとって変わられ収束していきました。

ゼロ年代半ばの「エビちゃん蛯原友里さん)」に象徴される「赤文字系モデルブーム」を経て、「ポストエビちゃん」を探していた世間から再び注目されたのがギャルカルチャー、そして当時「Popteen」の読モとして圧倒的な支持を集めていた益若つばささんです。

「経済効果100億の読モ」「”エビ売れ”ならぬ”つばさ売れ”」という触れ込みでTVや雑誌に取り上げられ、当時「Men's egg 」の読モだった梅田直樹さんとの結婚式を大々的にとりあげた「Popteen」は40万部が完売したといいます。

Popteen』2008年 02月号



人気モデル→タレント化のジレンマとステマ問題

益若さんのブレイク以降、小森純さん、鈴木奈々さんなどのギャル雑誌出身モデルをバラエティ番組のひな壇で見ることも多くなりました。

しかし、「身近な存在」が売りの「読者モデル」が、芸能人・タレント化すると、ブログやSNSで公開している「私生活」のレベルが変わっていき、共感しづらい存在になってしまうというジレンマを抱えています。

そして「私生活」を紹介するはずのブログに不自然な商品宣伝が入る、いわゆる「ステルスマーケティングステマ)」が跋扈したことも、ファン離れを引き起こしました。

読モによるステマ自体は90年代からあったことではあるのですが、ブログ・SNSブームで一気に加速したのです。

 

昨年(編集注:2013年)、筆者は「元祖ギャル男・ピロム」こと植竹拓さんに取材する機会がありました。氏曰く「読モ自身がアパレルブランドをプロデュースすることが増えた結果、カルチャーがリアルではなくなってしまった」という通り、ステマではないにせよビジネスと直接結びついたことによりシーンが停滞した感があります。

 

 

 

「なんでも”ギャル”の枠にされてなにがギャルなのかわからなくなった」

「ギャル誌がどんどん無くなってくし、ギャルに憧れる子も少なくなったな。 むしろなんでもかんでもギャルの枠にされてギャルって一体なんなのか分からなくなってきたもんな。 時代の流れって言うのは怖いもんだっと、元ギャルが言ってみる」
https://twitter.com/tenchim_1119/status/458140980235862017(現在は削除されているようです)

ジュニアアイドルからギャルに転身し、現在はタレントとして活動する(編集注:さらに2022年現在はYouTuberとして活動する)「てんちむ」こと橋本甜歌さんのTwitterでの発言です。

ブームにより、様々なビジネスがギャルカルチャーに侵食していき、ギャルとは対極の概念だったはずの青文字系ファッション誌『CUTiE』(宝島社)も109系ブランド「CECIL McBEE」や「Dazzlin」の付録をつけるなど、ギャルとギャル以外のカルチャーが段々曖昧になっていきました。

 

右・2012年2月号、左・2014年3月号。「CUTiE」の表紙も紙面もかつてとは雰囲気が変わりました

 「見た目はギャルではないがマインドはギャル……”中途半端なギャル=パギャル”こそが消費の主役」という「パギャル消費」という本も出版されました

 

 

 

 

そして「読モ」や「ギャル」「青文字系」などのカルチャーが拡散し、曖昧になっていく中で「人気読モ」というイメージをCDデビュー時にあえて切り離したのがきゃりーぱみゅぱみゅさんです。彼女は「バラエティ番組のひな壇タレント」でも「読モ」でもない第三の道ポップ・アイコン」としてブレイクし、その一方で「人気読モの音楽活動」というスタンスだったユニットAMOYAMOは今年3月に解散しています。

きゃりーの「ポップ・アイコン」としての成功こそが「ゼロ年代読モブーム」の収束を意味していたのではないでしょうか。

 

Popteen』2014年5月号

今年に入ってからの『Popteen』は生え抜きのモデルを表紙に登用することが減りました。ちなみに上に挙げた2014年5月号の表紙は「天使すぎるアイドル」こと橋本環奈さん、その前の表紙は「リアルバービー人形」ことアメリカ出身美少女ダコタ・ローズさんです(彼女は現在『Popteen』専属モデルですが……)。

他誌を見ても勢いを感じさせる若いモデルが少ない印象を受け、ゼロ年代後半の「読モ」ブームは一旦収束したように見えます。

4月28日は「シブヤの日」

4月28日は語呂合わせで「シブヤの日」だそうで、この日は様々なギャルが自撮りやプリクラをTwitterなどのSNSにアップしていました。

その中には「ギャルが減って寂しいけどシブヤを盛り上げたい」という趣旨の発言も多く含まれていました。ギャル雑誌やいかにもなギャルは減ったけれど、ギャルカルチャーがなくなったわけではありません。

ちなみに「GAL」ではなく「GYARU」で検索すると、ギャルを扱う海外の記事も多数出てきます。ギャルカルチャーに馴染み深い「絵文字」も「EMOJI」として通じるようになってきています。

 

また、アニメファンの多い欧米では『超GALS! 寿蘭』というアニメをきっかけに「ギャル」に目覚め、現地でギャルサーを作成するというケースもあるようです。

欧米に出現した「ギャルサー」は、NHK「東京カワイイTV」や櫻井孝昌著『世界カワイイ革命』などの書籍でも紹介されていましたので、ご存知の方も多いのでは。

また109系のアパレルショップもアジア圏に店舗を出していることも多く、たとえば「LIZLISA」は台湾、香港はもちろんのことマカオにもショップがあります。

 


Popteen』モデルの菅野結以が台湾の「LIZLISA」に訪れた時の様子です

店舗の内装もほぼそのまま、価格もハイブランドよりは手の届きやすいものなので、現地では重宝されているようです。ちなみに『Popteen』は中文版も正式に流通しています。ちなみに、『Popteen』中文版Facebookページのイイネ!の数は9万を超えています。

 

海外の話は一例ですが、もしかしたら意外なところから10年代以降のギャルカルチャーは盛り上がっていくのかもしれません。

 

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ほぼ10年前、フリーライターとして駆け出しの頃の文章です。

10年経ってみての答え合わせとしては、拡散と浸透を繰り返した結果、「ギャル」カルチャーは盛り上がっている…のかしら? もはや「パギャル」ではないよう服装やキャラクターの人たちも「マインドギャル」を気軽に使用している状況です。Twitterなどの創作マンガの中は「オタクに優しいギャル」がネットミーム的に消費されて久しいです。あるいは、中国版Instagramと呼ばれる「小紅書」に目を向けると、さまざまな「ギャル」ファッションを意識した女性たちはたくさんいます。当たらずとも遠くなかった…かな? いやでも女性ばかり言及していて、この時点ではkemioさんのような存在の捕捉はできていないですしね(kemioさんがVineを始めたのは2013年)。