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フリーライター藤谷千明の日記です

【感想】『急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本』(朱野帰子さん・著)の感想

この記事は、5月21日「技術書典14」にて頒布された『急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本』(朱野帰子さん・著)の感想です。

 

techbookfest.org

 

小説家の朱野帰子さんは『わたし、定時で帰ります』のドラマ化を追い風にして原作小説が20万部を越える大ヒット。しかしそれは良いことばかり持ってきてくれたわけではありませんでした。急に「売れ」が来たことによって生まれた小説執筆以外の仕事、「売れ」が起こす周囲の変化、それによる自身の心身への影響、まるで嵐のような「売れ」からの生還(生還という言葉が相応しい)〜回復までの経緯が記録されている「技術書」です。リンク先に目次があるので、詳しいことはそこで確認してみてください。わたし要約下手だし。技術書といっても、かたい文章で書いてあるわけではないので、エッセイ感覚で読めます。

 

目次を見て気になるやんけ〜となったものの、今現在色々あってあんまり家から出られないので(別に病気とかではない)、通販ないかな〜と思ってたところ、なんと「技術書典」は会場に足を運ばずとも、サイトで本を手に入れる仕組みがあることを知りました。やったー、買いまーす。そして『世界の中心で、愛を叫ぶ』の帯の柴咲コウのごとく泣きながら一気に読みました。涙ぐんだくらいで、ずっと泣いていたわけではないので、今のは誇張です、すみません。

 

わたしは小説家ではなく、「エッセイを書くけど、取材原稿も多い人」です。面倒なので「フリーライター」と名乗っています。エッセイストじゃないし、ジャーナリストでもないし。あ、でも健康保険が泣くほど高いのでエッセイストの組合、文筆業の組合には入りたい…(紹介者がいないのです)。すみません、話がそれました。正直、今現在わたしはフリーライターとしてもいうほど「売れ」てはないのですが(売れたいか、売れたくないかと聞かれたら「売れた〜い」と元気よくお返事します)、それでも「わかる…」となる箇所は多く、これはつまり、フリーランスの文筆業がなにかしらのきっかけを経てなんらかの評価され、〈執筆〉以外で求められる部分が増え、それがどんどん周囲と自分でズレていくことの負担というか。それは相手に対して言葉にしないと伝わらないのだけど(言葉にしても伝わらないことは…あるが!)、そもそも「変だな」と思っても、自分の中に判断基準がないからわからなかったりする。

 

基本的に文章を書くのは「個人戦」なので(マンガ家やフリーランスプログラマーもそうなのかもしれない)、フリーライターの中でも、出版社勤務からフリーランスになる人は多いですが、そうではなくブログ書いててそこから書籍化、商業ライターに、とかの場合だと、同業者の知り合いや仲間が少ないこともある。そうなると「変だな」と感じる仕事相手がいたとしても「この人の言ってることは業界のローカルルールなのか、それとも単にこの人が変なのか、とかがわからないこともありますし。それをなんとなく見過ごしてたら大変なことになって、そのフォローで時間をとってしまい、本来やるべき仕事に遅れが出ることも。本来やるべき仕事を発注してくれている人は、なにも悪くないのに。そして「世間知らずなわたしが悪い」と自己嫌悪…それがまたストレスになる、書いて字のごとく悪循環。あるいは「こういった諸問題を上手くいなして立ち回るのがプロフェッショナル、そうあるべき」と無理をしたり。


「売れ」という現象は本文で「隕石」とも喩えられていましたが、急に来るし来たら大変なことになる、下手したら命にかかわる。公私共に他者と協力しないと乗り越えられない、ある種の嵐のようなものという…(もちろん「売れ」の対価は入ってくるけれど、はたしてそれは費用対効果、その後のダメージなどを考えたら適正価格なのか…? というケースだってあると思います)。


「本が売れる」以外でも、急にバズったりして環境が変わる可能性のあるクリエイターの人は読んで損はないはず。会社組織でも「急に評価されて大変なことに」ということもあるかもしれない(わたしはずっと非正規雇用が多かったので「評価」に無縁だったからちょっとわかんないですが)。そして、そういう人の近くにいる人、家族だったりパートナーだったり、友達だったり、「あの人、ずっと頑張ってて結果が出てよかったな、でもなんか機嫌悪そう」というとき、「忙しい」以外の理由が想像できないけど、なんか心配だなという人とか。みんながみんなこの本と同じということはないと思うけれど、「売れ」が来て生まれる摩擦は、作家ではなくても、結構似ているのではないかと予想します。というわけで、けっこう間口の広い書籍なのではないかと。みんなで生き延びようね。(正直このブログの更新続けているのも「仕事じゃない文章」を書くことで休憩しているところもあります。仕事もしてますが。あとは、わたしの場合、自分が「取材する側」になることもあるので、そこで気をつけるべきことも書いてありました)

 

ちなみにわたしは朱野帰子さんの小説ですと、『対岸の家事』も好きです。作中にいろんな立場の色んな人が出てきますが、それぞれの立場を尊重した上で物語を紡いでいる。気持ちよく読める本です。