fjtn_cの日記

フリーライター藤谷千明の日記です

自衛隊は福祉じゃないので

※20年の12月くらいに書いたカクヨムを加筆修正しています。

 

唐突に昔のことを思い出したから書くんですけど、自衛隊にいた頃の話です。
今はどうかわかりませんが(こないだ、たまたま知り合ったもと元自衛官の方の話を聞く限りは、多分あんまり変わってない気がします)、「バカでもなれる公務員」こと自衛官は、ある種のセーフティーネットとして機能していたところがあります。なおこれは「一般」に限る話で、陸曹候補士以上の話は多分別ですね。詳しいことを知りたい人は検索してみてください。

 

一般で入ってくる人の中には、落ちこぼれのヤンキーだったり(だいたい容量がいいので普通に仕事できる)、地元だと就職しづらい出自を持っている人だったり、私のようにコミニケーションに難をかかえたタイプ(1番面倒)だとか、とりあえずどんなクズでも一旦衣食住が確保されて、人生を立て直すものというか、ある種の福祉として機能してくれていた部分があったと思っています。自衛隊、いうて「できないバカ」に合わせたカリキュラムを組んでくれてるので、「結果が出せない」人をそれなりに面倒を見てくれるんですよね。そのレベルのバカを鍛え上げて「最低限使い物になる」レベルにしないと、組織が成り立たないから。わたし自身その恩恵は受けすぎなくらい受けていました。それはいわゆる税金泥棒的な側面もあるので、あまり大きな声ではいえないかもしれないですけどね(でもブログに書く)。

 

とはいえ、そこからもはみ出てしまう人がいるわけで。たとえば、ひとつ上の先輩がいたんですけど、その人をあらわす言葉選びは、今の私にとっては、とても難しいのだけど(当時の周囲では汚い関西弁やネットスラングでカタカナ三文字で表現されていたこともあった)、小柄で、結構な頻度で鼻水かよだれが出ていて、わたしよりも体力がなく、集団行動も苦手なようで、いつも先輩からはドヤされて後輩からはそこそこに疎まれていました。わたしもその人と一緒に仕事をするときは、理由なく嫌悪感を抱いていたし、言葉に出してないけど態度には勢いよく出てたと思います。

 

自衛隊の陸士は、2年の任期制です。大体は1任期(2年)か2任期(4年)つとめて、衣食住を浮かせてためた貯金や、退職金を得てやめていきます。わたしもそうでした。まあわかりやすく雑にいうと陸士は非正規で、陸曹以上が正社員って感じですね。で、陸曹になるためには、それなりにまじめに勉強しないと受からない試験をパスしないといけません。なり手が少ないバブル期の頃は3任期(6年)以上務める人もザラにいそうだけど、わたしのいた頃(2000年前後)はすでにレアケースでした。これは地域によるかもしれませんが。

先輩の話に戻します。彼の2任期の終わりが近づく頃、隊内には「ようやくお荷物がいなくなるぜ」という雰囲気がありました。ひどいと思うかもしれないけど、「最低限使い物になる」レベルに引き上げられない人の面倒をみる余裕はさすがにないわけで。

 

しかし、ここで突然彼の両親が駐屯地を訪ねてきたのですよ。「どうか息子の面倒をまだここで見てほしい」と。そりゃあそうか、そっちでもお荷物でしょうね。しらんけど。そして気がついたら、先輩は3任期目に。試験を受けても(体力的な面でもペーパーテスト的な面でも)おそらくは受からないし、この2年間も彼にはおそらく雑用しか居場所がないことが予想できます。単に問題が2年先延ばしになっただけ。でも誰もそれを問題にしません。まあ、正直自衛隊サイドにはする義務もないと思いますが。ここを「福祉のように」使う人がいたとしても、実際は「福祉」ではないので。

 

そして1年後、わたしは例によって4年で辞めるつもりでいたので、退職直前の3月、たまった代休を取得し引越しの準備などをルンルン気分で行っていました。その浮かれモードに突然内線電話が。「あの先輩が薬物で逮捕された、警務隊の調査が入るから外出はやめてほしい」とのこと。

 

は?

 

「あなたは寮も別だし関係ないと思いますけど……」と遠慮気味に調査する警務隊の皆さんに半笑いでおつかれさまですと思いつつ面談を終え、その後の噂話を総合すると、治安の悪い街で風俗店の女性から薬物を勧められ購入。そんでもって街中で挙動がおかしかったので警察官に職質された結果色々出てきましたと。なんの申し開きもできへんベタオブザベタやんけ。わたしの有休が一日飛び、さまざまなところが大変になり、たしか地方紙には載ったのかな? 覚えてないです。

冒頭で話したように、自衛隊はある種のセーフティーネットとして機能している面はあります。でも、当然だけどそこから溢れる人もいるし、そもそも自衛隊セーフティーネットとして使うほうが邪道なので、「こぼれ落ちること」自体を非難することもできない。(こぼれ落ちる過程でパワハラやセクハラが発生しているのであれば、それは起こるべきではないし、批判・非難、責任が問われるべきだけど)

あの両親はあの時問題を引き伸ばしたことを、後悔しているのかな(公務員5年目の給料がなければ、おそらく風俗店には行けないし、薬物も購入できない)。あるいは、刑務所に入ることになれば(初犯なら執行猶予がつくと思うけど)、「面倒をみてくれる」と思うのかな。

「弱者」について考える時、いつもこの話がチラついてしまうのだけど、一体どうしたもんですかね。当時のわたしは「有休〜😩!」としか思ってなかったですけど。